セラピストにむけた情報発信


 視線に注目するリハビリテーション



2008年4月23日

セラピストの皆様は,患者さんの上肢動作や歩行を評価する際,視線の動きに着目することはあるでしょうか.

ヒトはは絶えず視線を動かし,必要な視覚情報を取り込んでいます.この15年で視線行動を測定する技術が飛躍的に進歩し,上肢動作や歩行の際の視線行動についても,多くの研究がなされました.

その結果,視線の四肢の動きのパターンには強固な時間的・空間的関係があることがわかってきました.また加齢や脳疾患によって歩行に問題がある人の視線行動を測定したところ,視線と下肢の動きの協調関係が崩れていたという報告もあります(Chapman et al 2006).

もし視線と四肢の動きを協調させることが,適切な身体運動の実現に不可欠ならば,リハビリテーションによって四肢の運動機能が回復したとしても,視線と四肢の動きの協調性を回復させない限り,適切な身体運動が実現できないことになります.

このように考えると,患者さんの上肢動作や歩行を評価する際,視線の動きに着目することで,患者さんの抱える問題や介入方法について,新たな視点を提供してくれるのではないか,そんな期待が高まります.

視線と四肢の動きがどのように協調するのかは,動作によって異なります.しかし共通して見られる特徴は,視線が四肢の動きの先導役を担うということです.すなわち,ヒトが四肢の動きによって空間内の対象物に働きかけるとき,その動きに先立って,視線がその対象物に向けられます.動作が始まる0.5−1秒程度前に視線が向けられるというのが,複数の研究で指摘されています(これも動作や課題によって異なります).

机の上で様々な作業をする際の上肢動作を評価するに当たっては,手で操作しようとする対象物に対して事前に視線が向けられているか,連続した動作の中で,視線の動きと上肢の動きに連動感が見られるか,といったポイントで観察して見るのもよいかもしれません.

現在,森岡周先生(畿央大学)と一緒に本を作っています.
その中では,視線行動の研究についてより詳細な情報を提供しています.完成したら,この場でお知らせしますので,ご参照いただければ幸いです.

参考文献
Chapman GJ et al.: Evidence for a link between changes to gaze behaviour and risk of falling in older adults during adaptive locomotion. Gait Posture 24: 288-94, 2006


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